幽閉する男
幽閉する男
本書に収められた写真を撮影したのは、2001年から2007年にかけて、被写体はウルグアイの首都モンテビデオ市ゴエス区の一邸宅である。
そこは20世紀半ばウルグアイの政界を率いた名望ある一族の所有する家だった。
うち続く戦争の結果ヨーロッパや日本は窮乏をかこった20世紀前半、1950年代半ばまで、ウルグアイ、アルゼンチン両国はこれと全く対照的に、繁栄と力強い経済を享受する日々を生きた。1960年代になるとウルグアイはゆっくりと下り坂へ移行し その度を強めていく。いずれ2002年には ウルグアイと周辺地域とを揺るがす大規模な経済・政治・社会危機が待ち構えていた。かつては「南米のスイス」の異名をとったこともある小国は、これ以来とても同じ国とは思われない有様を呈している。
私事になるが、ちょうど今世紀初め 建築を学ぶ大学生として一、二年を残すのみとなった自分は、自己表現の方法として写真に取り組むようになった。商業写真でも報道写真でもなく写真家として撮りたいものを撮る作家本位のシリーズを初めて手掛けるにあたり、同時期のウルグアイ社会の現実を重要な構成要素として作品に組み入れてみた。
屋敷内を撮り出したのはこのような流れのさなかであり、モンテビデオの都市生活、ウルグアイの社会生活が痛み崩れゆく足取りが、この閉じられた空間内にある種みごと映し出されていることに、撮影者としていたく興味を掻き立てられた。時の経過がある一族に引き起こす波紋、のしかかる疲弊、孤独、それらが不在というものに徐々に棲みつかれてゆく家の中に写りこんでいる。
とはいえ屋敷はもとより、いまだその家に留まり続ける唯一の住人、あの一族のただひとりの生き残りとなった人物の生にも注目している。お払い箱にされることを拒む調度品や記念品の数々に囲まれた世界、その海の底に沈んだ難船者は、決まりきった日々をどのようにやり過ごすのか。己れの思い出から抜け出せなくなった、一人の男。
ダニエル・マチャド